精神医学情報

最近の自殺の話題について

精神医学のトップジャーナルのひとつAJPの10月号で自殺特集が組まれており、その特集にコロンビア大学のJohn Mannの総説が載っておりました(Mann 2020)。John Mannは自殺やうつ病の研究でも有名な医師で、自殺の分野では世界で一番有名かもしれません。その最新の総説ということで現在の自殺についてはどこまでのことがわかっているのかを知ることができると思うので簡単に紹介します。

まずは導入

ここでは自殺は若者の死因でも上位に来ており対策が急務であるというよくある話から始まります。そこで近年、アメリカでは自殺者数が増えている中、世界的に同時に自殺率が減ったことが近年あったようです。どうやらそれはインドや中国などの人口の多い国で致死性の高い殺虫剤が禁止になったことが理由だそうです。

日本で言うと電車のホームにしっかりと柵をつけるということなどでしょうか。

なお、自殺を防ぐために大切なこととして次の2点が挙げられています。

  1. 自殺のリスクが高い人を見抜く
  2. 自殺の手段を取り除く

先ほどの殺虫剤の例はこの②でしょうか。②については毒物や銃など比較的シンプルなのですが①は中々難しいのでどこまでわかっているのかということをこの総説では深くみていっています。

ストレス素因モデルについて

先ほどの①をどうやって特定していくか!ですが、ここでは自殺のリスクの高い人を見抜くためにはストレス素因モデルが大切であると言っています。ストレス素因モデルは人間関係や金銭的な強いストレスを感じた際に自殺という行動をとってしまうような素因のことです。うつ病が元々あると言ったこともこのような素因の一つですね。そしてその素因をここでは4つほど挙がられています。

  1. 極端にネガディブで感情的な人
  2. 衝動的な行動を取りやすい人
  3. うまく気持ちを言語化ができなかったり認知機能が低下していたりする人
  4. 社会的な関わりが乏しい人

この4点に当てはまる素因のある人が自殺のリスクが高いということを言っています。なお、これらは元々の性格の場合もありますが、うつ病や統合失調症などで結果的にこれらに当てはるようになってしまった方も当てはまります。例えば、元々社交的だった人が病気になって人と全く接することができなくなってしまったというケースも外来などでよく見ます。

遺伝について

では、先ほどの素因についてどういう人がそういう素因があるのかについて遺伝について書かれています。

自殺と遺伝との関連はあるのかという点です。まずはざっくりと自殺は遺伝するの?ということに関してですが、ここではそれなりに遺伝する可能性はあるということが述べられています。つまり、親類に自殺者がいた場合は要注意ですね。

実際の診察の場でも親族に自殺をした人がいないかどうかは確認します。これがあるとリスクが高いなあと思い注意しながらみていっています。

遺伝するというのは「血縁者に自殺歴のある人がいると自殺のリスクが増える」と言ったざっくりとしたものですが、次にではどのような遺伝子が自殺に関連しているのか?という点が気になります。

近年は遺伝の研究の進歩が目覚ましいです。GWASという遺伝の研究手法によると、自殺は神経炎症、視床下部-下垂体-副腎との関連、GABAやグルタミン酸と言った神経伝達、神経新生に関連する遺伝子と関係している可能性があることが示されています。また、他にもストレス応答遺伝子のメチル化と自殺が関連しているのではないかとも書かれています。

脳との関連について

次にMRIでの脳研究についての話です。脳の研究といっても近年は一部の脳部位のみで話ができる問題ではなく、様々な脳部位がかなり複雑なネットワークを構築していてそれを元に考えられているので理解が難しいです。さらに研究自体もまだまだ発展途上のところなので不明な点も多く、また、不明点が多いからこそわかりにくいということがあります。

脳構造

希死念慮や自殺と脳のネットワークの関連では、前頭前野前皮質(vmPFC)、眼窩前頭前皮質、前帯状皮質(rACC)、島皮質、腹側線条体といったネガティブな考えや自己参照処理に関連する部位での異常が示唆されていました。それ以外にもうつ症状の重症度と関連する部位や主観的に過剰に苦痛に感じてしまう脳部位での構造的異常が示唆されています。また、外側前頭前野皮質(dlPFC)や海馬における脳の萎縮が意思決定や記憶における障害とも関連しているのではないかと考えられます。

ネットワーク

拡散テンソルイメージング(DTI)という脳の白質(神経細胞同士の結合の評価)を調べた研究では、過去に自殺未遂を行った既往のある方は前頭葉と皮質下との結合が低下していることが報告されており、これは意思決定の障害が起きていることと関係しているのではないかと書かれています。

脳機能

脳機能を見たfMRI研究では意思決定のギャンブルタスクを施行したところ、dlPFC、ACC、視床、島皮質の脳活動が低下していることが明らかになりDTIや脳の構造研究と一貫する結果となっています。

神経伝達物質について(セロトニン等)

自殺のバイオマーカーとしてセロトニンの不足というのは昔から言われていました。少なくともセロトニンがうつ病や自殺に何らかの形では関係していそうではありますが、よく巷で言われているような「うつ病はセロトニンが不足しています!」という話はそう単純なものではなくまだわかっていないことも多いです。

有名な報告では、脳脊髄液(CSF)のセロトニン代謝産物である5-HIAAの低さがうつ病患者における自殺のリスクを予測し、そのオッズ比も4.6とかなり高いことがわかっています。また、脳PET研究ではうつ病患者の前頭前野ではセロトニントランスポーター(抗うつ薬のターゲットともなっています)の密度が低下していることが言われており、セロトニントランスポーターの機能低下と自殺との関連が示唆されています。なお、ノルエピネフリンと自殺との関連はまだはっきりとはわかっていないようです。

グルタミン酸の受容体であるNMDA、AMPA等の発現の異常は自殺と関連しているという報告もあり、近年注目されている抗うつ薬であるケタミンの自殺に対する効果が期待されるところです。

ストレス応答について

人はストレスがかかるとコルチゾールが放出されることがわかっており、コルチゾール はストレスホルモンと呼ばれています。ストレスホルモンであるコルチゾールと自殺との関連を見たところ、自殺未遂者はコルチゾールの値が低いにも関わらず、ストレスがかかるとコルチゾール値が急に上がり衝動性などにつながる可能性が示唆されています。

炎症について

うつ病患者の脳では神経炎症が起こることが知られています。ここ最近のうつ病のホットトピックでもありますね。『うつは炎症で起きる』という本も最近発売されていますね。

炎症性マーカーと自殺とを見た報告がいくつかあります。例えば、炎症性マーカーのひとつであるIL-6が自殺未遂者の衝動性と正の相関を、IL-1βは負の相関があるという報告があります。また、猫などから感染するトキソプラズマによる慢性炎症も自殺のリスクを上げることがわかっているそうです。

しかし、最近の研究では希死念慮と炎症性マーカーのmRNAの発現との間に関連はないのではないかと言われており、自殺のリスクと炎症が関連するかどうかについては今後縦断研究などで調査をする必要性がありそうです。本当に脳内の炎症が自殺と直接関連あるのかはまだまだこれからといったところです。

現時点では自殺に対してどのようにアプローチすべきかについて

以上がざっと掻い摘んで述べましたが、現時点でわかっている自殺の生物学的な研究についてです。難しい内容も多いと思うのでさらっと流してもいいですし、気になる項目がありましたら直接論文を読んでそこから元の元の文献に当たってみてもいいかもしれません。最後に論文へのリンクを貼っておきます。

これらから見てもまだまだ自殺についてはわかっていない点は多そうです。

ではこれらを踏まえて、自殺に対してどのようにアプローチをしていくかについてが最後にまとめられています。

自殺のリスクがありそうな人を見つける!

まずは、自殺をする人は何らかの精神疾患に罹患している場合がほとんどなので、何よりも精神疾患の治療が大切と言っています。特にうつ病は自殺者の約60%を占めており、死亡時にはほとんど治療がなされていないという現実があるそうです。

見つけたら薬物治療を行う!

薬物治療については、自殺の予防はリチウムやクロザピンがそのメカニズムははっきりしないものの自殺予防に効果があるという研究結果があります。また希死念慮が強い場合にはケタミンが効果的であるという報告がありますが、これは希死念慮が強い場合に有効であって長期的な予防に効果があるかということはまだ調査されておらず不明とのことです。これからケタミンの長期的な転帰についての研究は多く出てきそうです。

リスクが高そうなら入院!

また入院したからといって安心ではありません。自殺企図で入院した方はある程度良くなって退院した後、1週間で300倍、1ヶ月で200倍ほど高い自殺のリスクがあるようです。入院して治療したから安心ではなく、退院した後もしばらくは慎重に経過をみないといけないですね。

自殺の手段を断ち切る!

また先述もしたが、いかに自殺の手段を断ち切るかも非常に大切です。ほとんどの自殺未遂は、数ヶ月先の計画だったとしても実際に自殺を行うかどうかの最終決定は数分前に決まるとされています。また、イギリスで石炭ガスやスイスで銃を禁止したところ自殺率が大幅に低下したそうです。自殺未遂者の8割はその後自殺をすることはないという報告もあるため、衝動性をいかに抑えるか衝動的に死にやすい状況をいかになくすかは大切そうです。

最後に参考にした論文のリンクを貼っておきます。興味のある方は論文自体も読んでみてください。

 

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