近年食事とうつ病との関係に注目が集まっており、先日の11月4日にその面白い総説論文が精神科のトップ雑誌Molecular Psychiatryに出ていたので紹介します(Marx 2020)。
以前のうつ病と食事に関しての16件の研究をみたメタアナリシスですが、ここでは食事療法が抑うつ症状に少しではあるが効果的であるという報告がなされました(Firth 2019)。
- 地中海式食事法
3件のランダム化比較試験では地中海式の食生活はうつ病の治療に効果があるという研究がいくつか報告されています。
地中海式の食生活で積極的に摂取するとよいとされているのは、オリーブオイル、ナッツ類、海産物、鶏肉などですね。

具体的には
- 果物や野菜を中心に
- ナッツや豆類、海藻類をたっぷり取り入れる
- 油にはオリーブオイルなど植物性のものを
- パンやパスタについては全粒粉、お米については玄米を奨励
こちらを心がけましょう。
記憶やうつ病の症状にも関連する海馬の神経新生に関わるBDNFについてですが、こちらもナッツ類を含む地中海式の食事でBDNFが増加することがわかっています(Sánchez-Villegas 2011)。ここでも地中海式食事強いですね。ただ、欧米式の食事は海馬に関連する記憶や学習能力を低下させる可能性があるという風にも書かれているので地中海式の食事がすごくいいというより欧米式の食事がダメなのではないかと思う部分もあります。
- 抗炎症フード
近年うつ病でも、脳内の炎症が起こっていることが示され、抗炎症薬がその治療に役立つということがわかっています(Köhler‐Forsberg 2019)。より炎症性の高い食事パターンの人は、時間の経過とともにうつ病を発症するリスクが高くなるという報告もあります(Lassale 2019)。
地中海式の食生活は、全身の炎症を減少させることを示している報告があります。(Kastorini 2011)
抗炎症作用ということで言えば、ブルーベリー、ココア、クルクミン(いわゆるウコンですね)、サケなどに含まれるオメガ3系脂肪酸は抗炎症作用がありますので積極的に摂りたいですね。

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- 抗酸化フード
酸化ストレスについても述べられています。持続的な酸化ストレスはうつ病を悪化させることがわかっています。これは細胞傷害に対する酸化ストレスの直接的な影響以外に、ミトコンドリア機能不全、炎症、セロトニンに関連するトリプトファン代謝の変化につながる可能性があるとされています。そのため、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質(Traber 2011)がうつ病にいい可能性があります。
ビタミンCが豊富・・・イチゴ・柿・キウイ・オレンジ・赤ピーマン・ブロッコリー
ビタミンEが豊富・・・鮭・かぼちゃ・アーモンド・うなぎ
またうつ病は過剰なコルチゾールが問題となることがあります。ビタミンCでコルチゾールの低下が観察されています(Brody 2002)。また、こちらもオメガ3脂肪酸の介入試験では、うつ病の人でもコルチゾールレベルが改善されたことが示されています(Barbadoro 2013)。
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- 腸内細菌
また、近年は腸内細菌とうつ病との関連の研究も進んでいます。プレバイオティックスのサプリはビフィズス菌などの有益な腸内細菌の減少を抑え動物研究ではうつ病に効果があるのではないかと言われています。玉ねぎやゴボウに多く含まれているイヌリンはビフィズス菌を増やすなども言われています。ただこれらの腸内細菌とうつ病との関連の研究はまだまだ十分ではなく今後の研究に期待といったところです。
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- トリプトファン
次はトリプトファンについてです。これはうつ病に関連のあるセロトニンの前駆物質です。うつ病ではセロトニンが作られず、トリプトファンから毒性のあるキヌレニンへ変換されることが病態のひとつとして考えられています。最近の研究ではうつ病60人の方にプロバイオティクスで介入したところ、プラセボと比較して有意にキヌレニンレベルを低下させたという報告があります(Rudzki 2019)。
セロトニンは脳内で作られますが、その材料として必須アミノ酸のトリプトファンが必要となります。ただし、トリプトファンは体内で生成できないので、食事から摂らなければなりません。プロバイオティクスで介入ということも考えると、ヨーグルトや乳酸菌飲料がオススメです。

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- 肥満に注意
最後に肥満についてです。メタ解析によると、肥満の場合は男女ともにうつ病発症のリスクが55%増加し、逆にうつ病の人は肥満となるリスクが58%増加することがわかっています(Luppino 2010)。
以上だらだらと述べましたが、まとめると、うつ病を避けるならば、まず太り過ぎずに魚を中心にオリーブオイル、ナッツなどの地中海式の食生活を送り、ヨーグルトや乳酸菌を飲みましょうということでしょうか。