双極性障害の躁症状に対しては、約8割が薬物療法に効果がありますが、効果発現までの時間がかかるなどの難点はあります。
そのため躁症状に対しても即効性のある電気けいれん療法(ECT)が有効であるという話は昔からあるもののうつ病に対するECTほどは浸透していません。
そのため、現在の臨床の現場でも躁症状に対してECTをやるかどうかは意見が分かれるところが多いのではないでしょうか?
双極性障害で重い躁症状で悩んでいる方も ECTいわゆる電気治療を提案されたという方はそんなに多くはないのではないしょうか。
では実際、躁症状に対してECTは効果があるのかということをまとめた総説が先日精神科のトップジャーナルであるAJPに発表されていたので少し紹介です(Elias 2020)。
まずはエビデンスレベルの高いランダム化比較試験についていくつか紹介です。数が多くないため個々の研究が載っています。
ランダム化比較試験
古いものだと、1988年にSmallらは、双極性障害の躁病および混合エピソードにおいてECTとリチウムの効果を比較したものがあります。ECTを受けた患者17名は、リチウムを投与された群17名と比較して有意に大きな改善がみられたそうです。また、ECTでの治療群では、症状改善後に抑うつ症状が認められずリチウムでの治療よりいいかもしれないという結果です。
1988年にMukherjeeらは、躁病患者25人をハロペリドールとリチウムの併用療法、またはECTに無作為に割り付けて検討しました。ここでもECTでは有意に多くの患者が寛解となりました。
他には1994年には、Sikdarらは、双極性障害の方を対象にECTとクロルプロマジン投与を15名、または、麻酔のみでECTを行わずクロルプロマジンを投与した15名を比較した研究が行われました。結果としては、ECTとクロルプロマジンの併用は、麻酔のみでクロルプロマジン投与よりも明らかに効果があったとされています。8回のECT後で15人中12人が寛解したのに対し、麻酔とクロルプロマジンを投与された患者では15人中1人のみの寛解となっています。
2009年にMohanらは、50人の患者を発作閾値より少し高い電力でのECT26名と発作閾値の2.5倍と非常に高い電力でECTを行ったところどちらも安全かつ有効で寛解率は88%であったそうです。この研究で電力はそこまで上げなくても発作が起これば治療に有効であることが分かりました。
後ろ向き研究
次にカルテ調査などの後ろ向き研究を紹介します。その中でも最大規模の研究の一つであるBlackらは、438人の躁病患者においてECTを受けた患者(78%)では、リチウムで治療された患者(62%)または治療を受けなかった患者(32%)と比較して、より顕著に改善が見られていたと報告しています。さらに、リチウムに反応しなかった方の69%がECTで改善したそうです(Black 1987)。
このように躁病においてECTの治療効果はかなりありそうであるという結論になっています。ちなみに躁病エピソードにおいて、抗精神病薬がECTの効果を増強するかどうかについてはまだまだ研究数が少なく結論が出せないそうです。
またここで述べてきたのは主に躁症状に対する急性期での治療ですが、維持期においてもECTは有意に入院回数、入院日数共に短くなったとされています(Santos Pina 2016)。