普段外来を行っている抑うつ気分や不安感を認める場合があり、採血を行っていると鉄やフェリチン(貯蔵鉄の目安)の値が低かったり貧血を認めたりする場合が少なくありません。

このような場合には鉄剤などを補うと1−2ヶ月ほどで改善することもよくあるので、ある程度初診の方には採血をして疑うようにはしています。
個人的な感覚としては、不自然に不安感が強い場合などにこのような鉄欠乏が絡んでいるといった印象があります。
具体的には、不安感や抑うつ気分で落ち着かず検査で何もなくても不安で仕方なく一人でいられず週に何回も来院していた方が、鉄剤を補って安定すると不安感がおさまって来院のペースも月に一度で全然平気となった方がいました。週に何度も来院はやや極端ですが、似たようなケースは他にも複数います。
いくつか鉄とうつ病とに関する研究もあります。
イタリアの高齢者986人を対象にした調査(Onder 2005)では、鉄欠乏性貧血がある場合、うつ症状を認めるリスクが高いということが報告されています(オッズ比=1.93;95%信頼区間、1.19-3.13)。
日本国内でも同様の報告があります(Hidese 2018)。うつ病の既往歴のある1000人と対照者10876人に対し鉄欠乏性貧血がある場合にうつ病の既往の割合が高いかどうか調べた調査です。この調査によると、鉄欠乏性貧血のある参加者では、うつ病の既往のある方が有意に高いことがわかったそうです(p < 0.001;OR;1.52)。
ちなみに鉄欠乏性貧血は女性では出産や妊娠、子宮筋腫、胃潰瘍のある方で多く、男性では胃潰瘍のある方で多かったようです。妊娠中の女性でも鉄欠乏があると2.5倍ほどうつ病になりやすいことがわかっています(Dama 2018)。
また、対策として鉄の補充が治療に良いというメタ解析もあります(Zongyao 2017)。メタ解析では鉄を摂取するとうつ病のリスクが下がることが示されています(リスク比0.57 ;95% CI: 0.34–0.95)。