以前に2回、ルボックス(フルボキサミン)という抗うつ薬SSRIが新型コロナ(COVID-19)の重症化予防に効果的という記事を書きました。


この2つの研究ではいずれもルボックスを内服すると重症化がゼロという驚くべき結果でした。この場合、自然と出てくる疑問として「では、他の抗うつ薬はどうなの?予防するの?」というものがあるかと思います。
その質問に対する大規模な検証がフランスで行われました。これは前向き研究ではなく、後ろ向きのカルテ調査です(Hoertel N 2021)。
本調査では、フランスでの流行開始時(2020年1月24日から4月1日までの間)にCOVID-19で入院した18歳以上の成人を対象としています。成人の入院患者7230人のうち、345人(4.8%)の患者が入院後48時間以内に抗うつ薬を1日平均21.6mg(SD=14.1)のフルオキセチン換算量で投与されていたようです(約8割が1種類の抗うつ薬)。ちなみにこの量はルボックスで言うと77.4mgです。下記にここで使われていた抗うつ薬の一覧を載せておきます。

これら抗うつ薬を処方されていた患者さんとそうではない患者さんでどちらが重症化(気管挿管されたか)または死亡しやすかったかを観察しています。
その結果、抗うつ薬を内服していると、重症化や死亡のリスクを減らすことがわかりました(HR、0.56;95%CI、0.43-0.73、p<0.001)。次にサブ解析によって、この関連は抗うつ薬の中でもSSRI(HR、0.51;95%CI、0.316-0.72、p<0.001)、およびSSRI以外のもの(HR、0.65;95%CI、0.45-0.93、p=0.018)についても有意であったようです。(ちなみにここの研究ではルボックスを内服した人は1名しかいなかったため、ルボックスが結果を引っ張っているとは考えなくて良さそうです)

また、興味深いこととしては、入院前3ヶ月の間で抗うつ薬を処方されたが、入院中には処方されなかった患者[55 / 159 (34.6%)]は、入院中にのみ抗うつ薬を投与された患者[84 / 345 (24.3%)]に比べて、重症化または死亡のリスクが有意に高かったようです。つまり罹患した時点で抗うつ薬を使用していないと意味はなさそうです。
どの程度の用量が必要かについても気になる点ですが、低用量[32 / 150 (21.3%)]と高用量[37 / 140 (26.4%)]でも差はなかったようです。
なぜ抗うつ薬が新型コロナ感染症の重症化予防に効果があるのかが気になるところですが、これらの理由としてはまだ仮説の段階ですがいくつかこの論文では書かれています。
ひとつは酸性スフィンゴミエリミナーゼの活性を抗うつ薬が阻害する可能性があり、それがコロナウィルス(SARS-CoV-2)の上皮細胞内への感染を予防する作用があること。次に、多くの抗うつ薬がシグマ1受容体の作用薬(アゴニスト)でありサイトカインストームを予防する可能性があること。他には抗うつ薬自体に抗ウィルス作用があるのかもしれないがそこは検証しなければわかりませんということのようです。