精神医学情報

認知症と精神病症状(幻覚・妄想)について

幻聴や妄想といった精神病症状は一般的には統合失調症の症状としてよく知られていますが、アルツハイマー病やDLBといった認知症などの変性疾患でもよく起こります。

これまで報告されている中では次のような精神病症状と特定の疾患との関係が言われています。

幻視はレビー小体型認知症の主な症状のひとつであることは有名です(McKeith 2017)。レビー小体型の認知症では、人の幻覚と人以外のものの幻覚は、異なる神経起源から生じる可能性があると言われています(Nagahama 2007&2010)。

メタ解析によると、幻覚はアルツハイマー型認知症患者の13~16%で発生するとされています(Zhao 2016)。アルツハイマー病認知症患者の最大35%が妄想を持っており、アルツハイマー型認知症に伴う妄想は、窃盗や迫害などの妄想性のものが多く、右海馬の体積減少を伴うことがあると報告があります(Geroldi 2000)。

また、FTD原因遺伝子の1つであるC9orf72の異常伸長を認めた行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)の36%で、bvFTDで異常伸長していない方の17%と比較して、視覚、聴覚、触覚の幻覚が発生したことが明らかになりました(Devenney 2017)。 妄想については、C9orf72の異常伸張に伴うbvFTD患者の21%、FTDおよび運動ニューロン病(FTD-MND)患者の18%において、C9orf72で拡大した神経精神症状を呈していた(Sha 2012)。妄想内容については、C9orf72の異常伸張に伴う妄想は壮大な妄想になりやすいのではないかとされています(Shinagawa 2015)。

ただ、特定の変性疾患の死後脳における神経病理と精神病症状とを関連づけるにはまだ研究は不足しており不明のものも多くあります。その中で今回、大規模な死後脳と精神病症状との関連を見た調査が行われBrainで報告されたので紹介します(Naasan 2021)。これはカリフォルニア大学の変性疾患のある830人の死後脳を調査したものです。

830人のうち372人の患者が精神病症状を評価したデータが揃っており、そのうち111人の患者が精神病を有していました。372人の詳細については下記の表です。ではこれらの中で幻覚と妄想がそれぞれどのような内容で頻度があったのか見ていきます。

幻覚について

まず幻覚についてです。幻覚には視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった五感に関してありますが幻視の報告が多いです。

LBD/AD患者(レビー小体型認知症とアルツハイマー病の病理が同程度認められた)では14.3%の患者で移動するような幻視が報告されましたが、アルツハイマー病患者では2.8%、FTLD-tau患者では1.5%であったようです。TDPではこのような幻覚はなかったようです。FTLD-tauで移動性の幻覚を呈した患者は脳幹優位のLBDの病理を有していました。

パーキンソン病のBraak Stage5-6の方はそうでない方に比べて52倍ほど隅に影のような幻視を見る確率が高かったようです。LBD/AD患者の3分の1は、アルツハイマー病患者(7.3%)、FTLD-tau(6.8%)、またはいずれかのFTLD-TDP(6.1%)と比較して、人間の幻視が有意に高頻度で認められました。

幻覚を起こしたアルツハイマー病患者の61.5%で睡眠(睡眠からの覚醒または入眠)に関連して発生したと報告され、他のすべての患者よりも有意に高頻度であったようです。

聴覚、触覚、嗅覚、味覚についての幻覚は特にはっきりとした結果はなかったようです。

実際には誰もいないのに部屋の中に誰かがいると報告された感覚は、LBD/AD患者の15.5%で発現し、他の病理の患者よりも有意に多かったようです。

 

妄想について

次に妄想についてです一般的なタイプの妄想は、全体で17.3%の頻度でありました。

TDP病理の患者の3分の1、LBD/AD病理の患者の22%で発生し、他の診断群と比較して有意に高頻度です。

体の一部がロボットになるというような奇妙な妄想は、FTLD-TDPを有する患者およびLBD/ADを有する患者でより頻繁に起きたようです。

関係妄想(周囲の人の言動やネットの書き込みなどを、自分に関するものと確信するような妄想)はアルツハイマー病、LBDADまたはTDP-Bの病態を持つ4名の患者に認められました。

FTLD-TDP患者(26.5%)では、アルツハイマー病患者(9.1%)およびFTLD-tau患者(8.3%)と比較して有意に高い頻度で被害妄想などのパラノイアが認められました。

被害妄想の中では、FTLD-TDP-A-C患者では、アルツハイマー病患者(1.8%)に比べて、窃盗妄想(11.8%)、傷害妄想(15.2%)、自宅への侵入妄想(15.8%)を含む迫害妄想が高頻度でみられました。

家の場所が変わってしまうという妄想はLBD/AD病理を有する患者では他のどのグループよりも有意に多く(10.3%)、FTLD-TDPを有する患者では全く出現しなかった。

人物誤認の妄想は、LBD/AD患者(13.8%)およびFTLD-TDP患者(7.2%)において、他の診断を受けた患者と比較して有意に高頻度であったようです。FTLD-TDP病理を持つ患者もFTLD-TDP病理を持たない患者に比べて人を誤認する可能性が10倍ほど高いとなっています。

誇大妄想はFTLD-TDP-B 病理の患者に 9.4%の頻度で認められ他より多かったようです。FTLD-TDPの患者はFTLD-TDP病理を持たない患者に比べて自己高揚感に関する妄想を持つ可能性が22倍高いことが示されました。

 

では、まとめとして下に図を表示します。まずは、各病理でどの程度幻覚や妄想が出現したかのグラフです。

そして、さらに次に詳細としてどのような内容の幻覚や妄想が出現していたかのまとめです。

以上がこの論文の紹介になります。この報告のすごいところは精神病症状を認めた死後脳を約100例ほどまとめた点ですね。これまでの死後脳と精神症状との関連を見た研究はいくつかありましたが、ここまでの規模はなかなかないように思います。

レビー小体型認知症(DLB)で幻覚が多いことは臨床的にもよく知られたことでしたが、TDPで妄想が多いというのはちょっと意外でした。

認知症に妄想や幻覚といった症状が出ることは知られていましたがそこを詳細に検討した研究は貴重です。下に今回紹介した元論文のリンクを貼るので興味のある方は読んでみてください

https://academic.oup.com/brain/advance-article-abstract/doi/10.1093/brain/awaa413/6121200?redirectedFrom=fulltext

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