精神医学情報

ケタミンのうつ病治療について

ケタミンはうつ病治療の新しい抗うつ薬として最近のトピックでもある。SSRIなどの現在使用されているモノアミン系の抗うつ薬での治療には限界があり改善は不十分である。従来の治療では、うつ病の寛解率は治療抵抗性では15%以下と言われている。ここで2019年の3月にアメリカでFDA、2019年12月にヨーロッパにおいてエスケタミンの経鼻薬が新たなメカニズムの抗うつ薬として承認され注目を集めている。

ケタミンの作用機序についてはまだ不明な点も多いが、現時点ではシナプス形成およびシナプス増強を促進するという見解が有力である。簡単に説明するとケタミンはNMDA受容体を介してグルタミン酸サージを起こす。そしてそのグルタミン酸サージがAMPA受容体を刺激し、BDNF、mTOR、TrkB-ERK等を活性化し抗うつ効果を示すとされている。また、うつ病の病態にsgACCの過活動が言われているが、霊長類の研究でもsgACCへのケタミン投与でうつ症状が改善することが報告されている(Alexander 2019)。

また、ケタミンの作用機序はグルタミン酸系が主体ではあるが、μ、κ、δオピオイド受容体等のその他の受容体への低親和性も関係している可能性が示唆されている。

投与の用量に関しては高用量であればあるほど有効なのではないかとは言われているが、0.5mg/kgは1.0mg/kgと同等のようであった。また、高用量であればあるほど副作用のリスクも高くなるので0.5mg/kgが良さそうである。また頻度については確立されていないようで治療抵抗性うつ病の成人(N=67、年齢18~64歳)を対象とした二重盲検試験では、15日目の抗うつ効果は、週2回と週3回の静脈内投与(0.5mg/kg)で差がないことが示されている。4週間後にエスケタミンの治療効果がほとんど認められない場合は、治療を中止することが推奨される。メタアナリシスの結果から、ケタミンの単回投与は3~7日間有効であることが示されており、反復投与されたラセミケタミンの静脈内投与では、最大2~3週間の有効性が示されている(Kryst 2020)。

また、急性期のみではなく4ヶ月間追った研究では再発予防の観点でもエスケタミンは70%(従来の抗うつ薬では51%)と有用であったという研究もある(Daly 2019)。ただ維持用量に関しては今の時点でははっきりとわかっていない。

ちなみにケタミンの経鼻剤と静脈内注射を比較した最近のメタアナリシスでは、24時間後、7日後、28日後の有効性について投与経路の違いによる有意な差は認められなかった(McIntyre 2020)。ただ別のメタアナリシスでは静脈投与の方が優れていたそうです(Bahji 2021)。

ケタミンは自殺予防効果にも有用であるというエビデンスがある。単回投与と反復投与共に希死念慮の減少が示されており今のところ6週間まで持続するという結果があるようです。それ以上についてはまだ不明なところです。

また、ケタミンの最も一般的な有害事象としては、解離、知覚障害、異常感覚、脱力感などが報告されています。治療抵抗性うつ病におけるケタミン静脈内投与の研究では約72%が解離を報告しているのに対し、静脈外投与の研究では36%が解離を報告している。これは投与経路というよりかは血漿中濃度の違いの可能性もありそうです。解離は投与後40分以内にピークに達し通常は1-2時間以内に消失するとされている。他の治療抵抗性うつ病によく行われる電気痙攣療法(ECT)または反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)に反応しない患者さんに対してケタミンが有効かどうかはまだわかっていない。

ECTに反応しなかった治療抵抗性うつ病(N=17)とECTを行っていない治療抵抗性うつ病の方(N=23)にケタミン(0.5mg/kg)を単回静脈内投与して比較した研究では、ECTを行っていない治療抵抗性うつ病の方にケタミンがやや有効である傾向があるが統計的には有意ではなかったようです(Ibrahim 2011)。

このようにまだまだ未知の部分は多くあるが、ケタミンはうつ病治療の新たな選択肢になりそうである。

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