ステロイドはアレルギーや膠原病など様々な病気の治療に使われており有用である。一方でその副作用として精神症状が出現することがある。
Lewisらによる報告が有名である(Lewis 1983)。ステロイド治療を受けた2555人の患者を対象とした13の研究において、精神症状の発生率が約5.7%であることを報告した。ステロイド治療による精神症状は、急速に発症すると言われており、発症までの日にちの中央値は11.5日で、そのうち39%が最初の1週間、62%が2週間以内に発症したと報告している。その他の報告を見ても大体がステロイド開始後2週間以内に発症している。
また治療に関してはLewisらの報告では、ステロイドの投与量をゼロにするだけで、36例中94%の精神症状が消失したと報告している。Warringtonは、身体的治療のためにステロイドの投与を中止できない場合は、プレドニゾロン換算で40mg/日まで漸減し、その後すみやかに7.5mg/日まで漸減することを推奨している(Warrington 2006)。ただ減量することで抑うつ症状が出現する場合もあるため注意を要する。ステロイドによって生じた躁状態は抗精神病薬や気分安定薬で、うつ状態は抗うつ薬、せん妄は従来の抗精神病薬が治療効果のある可能性があることも報告されている。
また、発症に関しては用量依存性であることが知られている(Chan 1981)。プレドニゾロン90mg/日を投与された患者の8%が精神病症状を呈したのに対し、30mg/日を投与された患者の3%が精神病症状を呈したと報告している。
その他にもKennaらがレビューを報告している(Kenna 2011)。ステロイドの投与開始から平均12.2±13.7日後に始まり、60%が1週間以内に発症したが、投与開始後1日から60日までの範囲で発症した。 最も多かった症状は軽躁状態または躁状態で、54.5%(3055人)の症例に認められた。うつ症状は23.6%(1355人)に認められ、そのうち2人はせん妄も認められ、せん妄は20%(1155人)に認められた。希死念慮は36.4%(2055人)に認められ、そのうち半数弱(920人)は精神病を併発していた。これらの用量としてはプレドニゾロン相当量で63.6±46.2mg/日、範囲は5~200mg/日で使用されていた。
回復期間については、せん妄(数日)、抑うつ症状(4週間)、躁症状(3週間)ほどである。
ステロイドによるこれらの精神症状が出現するメカニズムはまだわかっていないようで、ドパミン系やコリン系に対するテロイドの作用、セロトニン放出の減少、海馬などの脳神経に対する毒性が挙げられる。