【質問No13】
飲酒は認知症になりやすいのですか?外来でこのままお酒を飲み続けると認知症になる危険性もあると言われました。ただ以前テレビなどでお酒は認知症になりにくくするとも聞いたことがあります。実際のところはどうなのですか?
【回答】
これは大事な問題で外来でもよく話題に上がるテーマです。
結論から言うと、1日4杯以上など飲酒量が多ければ認知症のリスクを上げ、3杯以下などそこまで飲酒量が多くない場合はまだ結論が出ていないと言ったところではないでしょうか。
ちなみに1杯は14gのアルコールのことを基本的には指します。ビールで言うと小瓶1本ほどです。
認知症のリスクについてはこれが答えですが、その根拠となっている研究を少し述べたいと思います。
この関係をみた有名な研究に2002年のLancetに出たオランダのロッテルダム研究があります(Ruitenberg 2002)。1990年から1993年に55歳以上で認知症を発症しておらず、飲酒量がわかっている方(5395名)を対象にして、その後約6年間追跡をして認知症を発症したかどうか調べました。その結果、197人の方が認知症となりました(ちなみに内訳はアルツハイマー病146人、血管性認知症29人、その他の認知症22人)。飲酒量との関連では少量から中等度の量の飲酒をされていた方は認知症で特に血管性認知症のリスクを低下させていました(ハザード比0.29[95%CI 0.09-0.93])。ちなみに年齢、性別、収縮期血圧、学歴、喫煙、体格などの影響は解析で排除されています。ただアルツハイマー病では有意ではなく、主に血管性認知症に特化しているので認知症とのリスクを本当に下げるかはこれでは断言はできません。
次に紹介するのはスウェーデンで行われた12326人を対象とした世界最大級の双子研究があります。これでは軽度から中等度の飲酒は認知症に影響しないが、多量のアルコール摂取のリスクがあることが示されています(Handing 2014)。具体的には少量飲酒の双子に比べて、中等度から高量の飲酒の双子では飲酒をしていた方が認知症リスクが57%高く、認知症発症年齢が4.76歳低下したことがわかりました。なお、軽度飲酒の双子と禁酒の双子の差は有意ではありませんでした。
2018年に報告されたフランスにおける退院時の記録のデータ31624156件を解析した結果では、アルコール依存症が認知症の主要なリスクであることがわかっています(Schwarzinger 2018)。
これらは臨床での飲酒との関連を見た報告ですが、実際に脳がどう変化していくかと言う研究もあります。30年間追った研究で、その期間中に飲酒量が多いほど脳の海馬の萎縮が進むと報告されました(Topiwala 2017)。これは飲酒量が多くても少なくても脳が萎縮するとなっており、約4杯以上毎日飲んでいる人は5.8倍の萎縮のリスクがあり(オッズ比5.8、95%CI1.8~18.6)、2-3杯でも約3倍でした(オッズ比3.4、95%CI1.4~8.1)。この研究を見ると少量の飲酒でも問題ないとは言えなさそうですね。
そもそもアルコール依存などのかなり飲酒量が多いと以前からコルサコフ症候群と言われる物忘れが出ることが知られていました。依存症となるまでの飲酒量とはいかなくても大体毎日4杯以上の飲酒をしてしまうと認知症のリスクは上がりそうです。
そして少量でも脳の萎縮があり、まだ明確にはわかっていませんが認知症のリスクもあるかもしれないと言ったところです。いくつかの研究では少量では認知症のリスクを下げるというプラスの可能性もあるかもしれないという報告もありますが、これらはどちらかというと脳梗塞などのリスクを下げ結果的に脳梗塞による認知機能低下は防げるといったことかもしれません。
ただ認知症にならなかったとしても、飲酒は肝臓病、交通事故、暴力 、がん、心血管疾患、自殺、結核など、200以上の健康状態が有害なアルコール摂取と関連していることも有名ですし、ノルウェーのコホート研究では、アルコール依存症で入院した人の平均寿命は男性47~53歳、女性50~58歳で、一般の人よりも24~28年早く死亡することが示されているので認知症にならないから飲酒をしても安心というわけではないです(Wiegmann 2020)。
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