【質問No16】
摂食障害の娘がいますが、身長155cmほどで体重は30kgほどです。通院している先生にはこのままいくと死ぬ可能性もあると言われました。本人はけろっとしておりあまり深刻味がなく、体重を増やそうとはしません。それどころかこれ以上太りたくないとも言います。誰がどうみても痩せすぎで周りからも心配されています。なぜこのように明らかに痩せすぎなのに太りたくないという考えなのでしょうか?
【回答】
摂食障害、特に神経性やせ症(いわゆる拒食症)は過食症に比べて予後も悪いと言われています。
以前も書きましたが、拒食症はすべての精神疾患の中で死亡率が最も高い病気です(Arcelus, Mitchell, Wales, & Nielsen, 2011)。感染症になったら重篤化するし、不整脈での突然死やら様々なリスクがあります。
一見すると「痩せて命の危険があるなら、死なない程度に少し食べて太ればいいじゃん」と思うと思います。
ただ、、そううまくいきません。よく起こる会話としては次のような感じです。
医療者「命の危険があるから点滴などから栄養入れましょうね。」
患者さん「太るの怖い」
医療者「でも命の危険あるよ?どうして?体重も30kgもないから危ないよ」
患者さん「わからない。。。まだ自分は太っていると思う」
こういう会話は摂食障害の方ではよくみられます。実際に患者さんを診ていると回復の困難さの1番の原因は認知機能の低下にあると感じます。いわゆる誰がみても痩せていてガリガリなのに、本人にとっては自分は太っていると思ってしまう「ボディーイメージの歪み」ってやつですね。
体重が大きく減ると、脳の萎縮や認知機能の低下が起きることがわかっています(King, Biol Psy 2018)。また脳の神経細胞のみではなく脳のアストロサイトも減少しているという知見もあります(Frintrop 2017)。
語弊があるかもしれませんが、このような脳の萎縮からも摂食障害の方は脳が正常に機能していない状態になっていると考えるとわかりやすいかもしれません。患者さんと話していると、「痩せることはいいこと」という考えがそのまま固まってしまっている印象があります。なので説得しても説明が入らず同じ思考の繰り返しです。認知症で同じ話を繰り返ししてしまう方がいらっしゃいますがその部分と近い点もあるかもしれません。
ただ認知症などとの大きな違いは脳の萎縮や認知機能は改善する可能性があるということです。現にいくつかの研究では体重が元に戻れば脳の萎縮も戻るという報告もあります(Bernardoni 2016)。また認知機能も体重が戻れば改善するという報告も多くあります(Hemmingsen 2020)。ただ柔軟な思考には単純に体重が戻ったからすぐには戻らない場合もあるようですが、まだ研究自体も少ないので何とも言えません。
さらにただ体重を戻すよりも早めの体重増加が大切と言えそうです。これは予後にも関係しそうです。特に初期段階での体重増加は、長期的な回復に重要であると言われています(Bargiacchi, Clarke, Paulsen, and Leger, 2019)。
結構臨床の場で陥りがちなのは、本人の拒否が強くどうしても体重を増やすことができず、説得も認知機能の低下から困難でずっと低体重で居続けてしまい体重の回復が遅れてしまうということです。。